下ノ廊下 2日目の1(仙人谷ダム編)

この日の朝は6時頃出発の予定だったので、5時くらいに起きればいいか…と思っていたのですが、周りのお客さんが早々と起きて身支度をしているので、つられる形で4時過ぎくらいに目が覚めました。
起きてみると、すでに小屋の入口で出発の用意を整えている人も。
大部分の人は欅平方面へ下りるので、トロッコ列車の席を確保する(10/19分の日記参照)ために早発ちしていくのです。
それに比べると黒部ダムへ向かう私はゆっくりできますが、とはいえ今日は長い距離(約18km)を歩くので、あまりのんびりしているわけにもいきません。


荷物をまとめ、水の補給など出発の準備。
前夜のうちに受け取っていた朝食の弁当、出発した後で明るくなってくる頃に食べようかな…と思っていましたが、同じように弁当にした他の方々が食堂のテーブルで食べているので、私もそうすることにします。
ちなみに、食べ終わった後の容器は置いていっても構わないようで、ポリ袋に包まれた空の容器がすでに10数個ばかり、テーブルの片隅に積まれていました。


他に黒部ダムへ向かうお客さんたちも先に出発していき、私もぼちぼち腰を上げることに。
外に出ると、水平歩道を欅平へ向かう皆さんのライトの明かりが、山の中で一列になって動いているのが見えます。


昨日温泉でご一緒した方がまだ残っていたので、準備運動をしつつ少し話をしました。
この方は、黒部ダムから来るというご友人と12時に十字峡で待ち合わせて、その後一緒に黒部ダムまで行くのだそうです。
黒部ダムから十字峡までは何度か歩いているが、阿曽原まで来たのは初めてとのこと。
ははあ、黒部ダム〜十字峡の往復っていうプランもあるんですね。しかし、12時に十字峡で黒部ダムまでというと、相当なハイペースになると思うのですが…。


同室だった大阪の単独の方も出てきて「ダムの方は紅葉も進んでますよ」と情報をくれました。
お2人に挨拶をして、いよいよ出発です。
時刻、5時42分。


出発
出発


小屋からはいきなり急登でした。
欅平からの登りよりはきつくありませんが、それでも朝一番でこれはしんどいと思えるレベル。
防寒着のフリースを着たまま小屋を出てきたのですが、すぐに暑くなってきて、途中で脱いでザックに突っ込みます。
まだまだ空は薄暗く、しかも樹林帯の中ということもあって薄気味悪い。
朝夕はクマの活動時間でもあるし、♪森の中〜くまさんに〜出会った〜♪なんてことになったら…という考えも頭をよぎります。


しかし、10分も登ると道は平らになって歩きやすくなり、気分もいくぶん楽になりました。
それでも、朝露で湿っていたりするところもあって気は抜けません。


平らな道をさらに10分も行くと権現峠のトンネルに差しかかりました。
このトンネルはコンクリートのしっかりした造りに見えるのですが、内部で崩壊しているのか、出口側のあたりで大きな石がゴロゴロ転がっていて足下に注意が必要。
さっきフリースをしまった時にライトも一緒にザックに入れてしまっていたのですが、出したままにしておけばよかった。


トンネルを抜け、すぐ下に黒部川の流れを見ながらさらに進むと、崩落防止のためかワイヤーで固定された岩が現れ、道はそこから左側へ急な下りになっています。
登ったらまたすぐ下りというのは何なんだ…と内心ぶつくさ言いながらどんどん下降。


下り始めてから10分少々、長いハシゴを下りるとようやく平坦になりました。
U字形のカーブをくるんと曲がると、先に大きな建物が。
関西電力人見平宿舎です。


関西電力人見平宿舎
関西電力人見平宿舎


宿舎の横に出て、登山者用に緑色のシートが敷かれた通路を通っていきます。
歩きながら宿舎の1階を横目でチラチラ眺めると、どの部屋も明かりが煌煌と点いていました。
一瞬、自分が黒部の山奥ではなく、普通の市街地を歩いているかのような錯覚に陥ります。


道の突き当たりに、大きな鉄格子がついたトンネル入口がありました。
道はこのトンネルの中へ入っていきます。
入口が鉄格子になっているのは、クマなどの動物が入ってくるのを防ぐため。
格子についた扉を開けて、中へ。


秘密基地のような通路を進んでいくと、トロッコの軌道を2回横切ります。
最初の軌道は支線、2回目は欅平から黒四ダムまでつながっている本線です。
本線の右側は、いわゆる「高熱隧道」と呼ばれるトンネルで、掘られた際には岩盤が160℃という熱さになって工事が難航し、ダイナマイトが自然発火するなどの事故もあって多大な犠牲者が出たとか。
これについては吉村昭の小説『高熱隧道』に詳しいです。
今では送水管が通ったりしてだいぶ温度が下がっているそうですが、それでも奥から熱気がムワーと押し寄せてきて、明らかに空気が違っていました。


一方、左側は黒部川の上を横切っている橋になっています。
ここは作業員の方々が乗り降りしたり、資材を搬入したりするためのトロッコの駅になっており、「仙人谷駅」と標識がありました。


なかなか面白い場所ですが、あまり時間を食ってもいけないので先へ進みます。
狭くて暗い(明かりはあるのですが)通路をさらにまっすぐ行くと、左側にドアが出現。
案内に従いドアを開けて外へ出ると、そこは仙人谷ダムの横でした。


階段を上ったダム堰堤上には、仙人池方面へ行くコースの分岐があります。
そっちの道も相当厳しいコースらしいのですが、いつかは行ってみたい。


ダム上より上流方面
ダム上より上流方面


堰堤を歩いて対岸に渡ります。
渡った先は車の通れる幅の道で、脇にはナンバーの付いていないワゴン車が1台置いてありました。どうやってここまで運んできたんだ?