下ノ廊下 2日目の3(白竜峡・黒部別山谷編)

程なくして「この先100mの区間は整備が完了していないため高巻道を通行してください」という看板とともに、丸太を組んだハシゴが登場。
ビルの3階分はあろうかという高さまで上っていくようです。
おいでなすったぜ!という気分に(またしても)なりつつ、慎重に上っていきました。


時間的にそろそろ黒部ダム側からやってくる登山者と出会う頃なのですが、こんなところで出くわしてしまうとすれ違いが非常に困難。
頼むからまだ来ないでくれ…と内心で祈りながら高巻きの桟道を通過します。


高巻き桟道上
高巻き桟道上


桟道の終点は下りのハシゴ。
上り以上に注意しながら下り終え、少し先に進んだところで、向こうから登山者が歩いてくるのが見えました。
この日初めてとなるすれ違いは初老の男性2人組でしたが、高巻き上での遭遇は何とかギリギリで免れたようです。あと5分10分遅かったらアウトだったんだよな…。助かった。


しかし、白竜峡はこのルートの中でもかなり道が狭くなる区間なので、すれ違いが簡単にはいかないことに変わりはありません。
向こうもこちらを確認してどうしたものかと少し迷っている風でしたが、上手い具合にこちらの近くに道幅に余裕のあるところを見つけ、そこに立って「どうぞ!」と声をかけました。
「申し訳ない」と言いながら通り過ぎるおじさんたち。いやいや、別に謝らなくても。


山ですれ違う際は基本的に登る人のほうが優先なのですが、このルートの場合は登り下りに関係なく、臨機応変に対処するほうが良さそうです。
そもそもどっちが登りなのか分かりづらいし。
というわけで、この2人組の後にも続々とすれ違いがありましたが、ほとんど私の方が道を譲っていました。まあ、たいてい向こうの方が多人数だったからね。


白竜峡の狭い道やら桟道やらガレ場やらを通過し、黒部別山谷出合までやってきました。
このあたりは下ノ廊下の中でも遅くまで雪渓が残っているところで、どれだけ残っているかによって通過の方法が異なります。
雪渓が完全に谷をふさいでいればその上を渡って通過、雪が消えていれば沢沿いまで下りて徒渉といった具合。


今回は10月下旬ということで雪は完全になくなっていたので沢に下りるわけなのですが、下を見て目をむきました。
ロープが数本垂れ下がっている3mほどの高さの壁に、靴のつま先がちょっとかかる程度の足場が数か所打ち込んであって、それ以外に足がかりはなし。
おまけにこの足場、一定間隔ではなく微妙にズレた位置に打ち込んであって、しかも壁のため足下が見えず、どこに次の足を置いていいのか分からない。
何度か試しては空振りというのが続き、なんとか下りきった時には5分ばかりが過ぎていました。
その間向こうから誰も来なくてよかった…。
しかし、今考えてみても高巻きのハシゴよりも怖い場所でした。これだったら雪渓の上を渡ったほうが楽だったよ。


見上げる
見上げる


さすがに少し疲れを感じ、難所の白竜峡も無事通過したことでもあり、またここまで4時間半ばかり歩いてきたというのもあるしで、ここで大休止を入れることにしました。
ザックを下ろして食料をパクつきます。生き返るなあー。やっぱり行動食だけじゃダメだわ。


休んでいるうちにガイドさんらしき若い男性と一緒の初老のご夫婦がやって来ました。
奥さんのほうに「大変だった?」と聞かれたので「この先(白竜峡)は道が狭くてちょっと大変ですね」と答えます。


20分ばかりして再び出発。
もう今日歩く距離の半分は過ぎているし、一番危ない箇所も通過しているので若干気楽です。


このあたりでごく細かい雨がポツポツと落ちてくるようになりました。
昨日も曇りだったし、今日も晴れそうな感じではないけど、降るのは困るなあ。
しかし大した雨ではないし、雨具を出すかどうか、どうしたものか…と思いつつ歩いているうち、やがて止んでしまいました。


やがて、川幅全体を覆っているスノーブリッジが目に入ってきたかと思うと、そのスノーブリッジのすぐ横あたりに再びハシゴの高巻きが見えてきました。
ハシゴに取り付くと、数十mほど先に下りのハシゴがあり、その横に数名のパーティーが立っています。
「すみませーん、ちょっと待っていてくださーい」と、向こうから声。
ああ、ちょうど向こうから来るところなのか、と了解し、待機。


待っている間に向こう側のハシゴを見ていると、どうもそのすぐ近くまで道がありそうです。
なんでここ通れないで高巻きになってるんだろ?
そのうちに先頭の人が下りてきたので、ルートの先の状況など情報交換。
「この先はもう高巻きはない」と聞いて安心し、ハシゴを上ります。
今回の高巻き道は白竜峡のところのものよりは短かったのでサクッと通過…と思ったら、最後のハシゴを下る途中でズボンの裾のドローコードが針金に引っかかってしまいました。
ちょっと焦りましたが、どうにか三点支持を崩さずに針金を外すことができ、再び歩道に降り立ちます。


高巻き桟道上
高巻き桟道上


来た方向を見てみると、ハシゴから10mほど先のところで道が崩壊しているようで、周囲にロープや丸太などが置いてあるのが見えます。
なるほど、あそこが通れないから高巻きになっているのか。しかしあれくらいの崩壊なら、桟道を渡せば十分なような気もするけどな…。


スノーブリッジを横目にヘツリの道を過ぎ、10数分も歩くと、樹林帯の道になってきました。
左側は河原が近くなってきて、どうやら危険箇所はこのあたりで終わりの様子、内心でホッと一息つきます。
しかし、確かにこの後は狭い道や桟道などの危険箇所はなかったのですが、その代わり周囲は樹林帯やガレ場ばかりで面白みのない風景が延々と続くことになるのでした。